逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
その後は、ちょっと遅めの夕飯をと麗香が軽く食事を作ってくれて、4人で他愛ない話をしながら食事を楽しんでいた。
麗人は何年かぶりに我が家で食事をして、麗香の手料理を食べれた事で今まで気が張っていたのがちょっと抜けたような気がした。
食事が終わると、麗香が別室から犬を連れてきた。
可愛い茶色の柴犬だが、ちょっと年を取っているようだ。
麗人はその犬を見ると懐かしくなった。
「ごめんね、伊集院さんが来てくれるから別の部屋に置いておいたんだけど。出してほしいって、ずっと泣いていたから連れて来たの」
たんぽぽ、久しぶりだね。
九条家にしばらく置いておいたけど、みんな忙しくて散歩にも行けないし、ご飯も上げる時間が遅くなるからここに置いてもらう事にしたんだよね。
麗人が懐かしそうに見ていると、タンポポが寄って来た。
「これ、たんぽぽ。だめよ、お客様なんだから」
麗香が注意するのも聞かず、たんぽぽは麗人にすり寄って行った。
「まぁ、珍しいわね。たんぽぽは、人見知りなんだけど伊集院さんにはすりよってゆくのね」
麗人はよしよしと、タンポポの頭を撫でた。
あの春の日差しの中。
優衣里さんが、タンポポが子犬の時抱っこしていた姿が今でも忘れられない…。
(あの時の犬なんだ。懐かしい感じがしたの)
え? 覚えていたんだ。
(ええ、覚えているわ。うちでは、みんな忙しいから飼えなかったから。でも、いつの間にかいなくなってしまって。誰かに拾われたのかな? て思っていたのだけど。まさか、部長がひろってくれていたなんて…。ありがとうございます)
いや…。
たんぽぽといると、優衣里さんと一緒に居られるような気がしたから。
(…有難うございます…。ねぇ、部長。そろそろ、逆転してもいい頃ですね)
え?
「たんぽぽ、すっかり伊集院さんを気に入ったんだね。よかった」
部長の麗人がホットした笑みを浮かべた。