逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
これを入力して、部長に提出して印鑑を押してもらい社長室に届けるのが優衣里さんの仕事だったなぁ。
喋りかけてくる文彦を無視して、麗人は仕事にとりかかった。
「おい! 優衣里。人が心配しているのに、なんだよその態度は」
怒りだした文彦を見計らって、部長の麗人がギロっと目を向けて来た。
「朝丘さん、今は勤務中です。業務以外の話は、慎んで下さい」
少しトーンの低い声で、部長の麗人が言うと、文彦はチッと舌打ちをして席に戻った。
「なに? どうかしたの? 優衣里ったら、急に冷たくなってんじゃない? 」
隣の彩がこそっと話しかけてきた。
「訳が分からん、今朝までいつもと変わらなかったんだが。俺を見る目まで変わっている」
「ねぇ…。ちゃんと慰めてあげているの? 」
「はぁ? 」
「付き合っているんだから、慰めてあげないと焼きもち焼かれるわよ」
「やきもち? 優衣里はそんな事しねぇよ」
「でも…優衣里との結婚を手にするなら、多少の慰めって必要よ」
「分かったよ」
ふてくされたような返事をして、文彦は自分の仕事にとりかかった。
定時になり。
仕事を終わらせた麗人は、帰り支度をした。
優衣里さんは仕事が早くて、ほとんど残業をしない人だった。
帰りはまっすぐ家に帰っていたのだろうか?
朝丘さんと交際していること以外は、目立ったことを聞いていなかったけど。
麗人はそのまま1階に降りてきて、エントラスを出て来た。
すると、黒服のビシッとした姿勢の初老の男性が目の間に現れた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
そう言われて麗人は思い出した。
優衣里は伊集院財閥のお嬢様で、送り迎えをしてもらっていたんだった。