逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
「あ…ごめんなさい、寝てました? 」
襖の向こうには、浴衣姿の部長の麗人がいた。
あ…そう言えば、僕は寝る時には浴衣を着て寝ていたんだった。
九条家に行くと旅館で使うような浴衣を、おじさんが用意してくれたんだった。
「いえ、起きていました。暫く、お布団で寝ていたなかったのでちょっと寝付けなくて」
「すみません、そうだったのですね。じゃあ、僕と変わりますか? 」
「え? 」
「僕の部屋はベッドなので、そちらを使って下さい」
「いえ、そこまでは…。きっと、急に泊りになって島たのでちょっと緊張しているのだと思います」
「少しだけ、入ってもいいですか? 」
「あ、どうぞ」
部屋に入って来たって事は…
(ねぇ、部長に抱き着いて下さい)
はぁ???? そ、そんな事していいのか?
(はい。大丈夫です…今、お月様が最高に輝いているから)
月?
麗人は窓からさしてくる月の光に目をやった。
そう言えばあの飛び降りた時も、月が輝いていたような気がする…。
(麗人さん、本当にありがとうございます。…私、もう大丈夫ですから…)
そうか…そうだよね、僕がいつまでも優衣里さんの中にいてはいけないよね。
でも、もしかして僕はこのまま消えちゃうのかな?
(いいえ、大丈夫ですよ。自分を信じて下さい)
麗人は、部長の麗人の背中を見つめた。
そうか、こうして僕は生きている。
飛び降りたのは未来だか、今の時点ではまだ来ていない。
ここは未だ過去だから…きっと大丈夫…。
ちょっとドキドキしながら、麗人は部長の麗人の背中にしがみついた。
ハッと驚いた部長の麗人だが、そっと麗人の手を握った。
「…伊集院さん…。貴女を愛しています…ずっと、高校生のときからこの気持ちは変わっていません」
「私も…同じでした…」
部長の麗人がそっと振り向いて、優しく見つめて来た。
「…愛しています。…優衣里さん…」
ゆっくりと部長の麗人の顔が近づいてきて、そっと唇が重なった…。
(私も愛しています…。本当は、結婚すると言った時。貴方に止めて欲しかった…)
そんな声が内がから聞こえて来た麗人は、スーッと力が抜けていくのを感じた。
倒れそうな麗人を、そっと部長の麗人が抱きとめてくれた。
感じる…とても暖かい愛を…
大丈夫、もうあんな悲惨な事は起こらない。
この愛をきっと一生感じているから…。
力が抜けると共に意識が遠くなってゆくのを麗人は感じた。