逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
それは、文彦が優衣里にプロポーズした時だった。
腹の底では殺人計画を立てていたと思われるが「幸せにします。結婚して下さい」と文彦が言ってくれた時は本当に優しい笑顔を向けてくれたと優衣里は思った。
その時と同じ笑顔で「有難う」と言った文彦。
「俺は…本当は、伊集院さんの事が本気で好きだったんかもしれない…。部長と仲良くしている姿を見た時は、今までに感じたことがない怒りが込みあがって来たのは本当だった。…俺の両親は、いつも喧嘩ばかりで。保険代理店をしながらも、加入者が少ない時は身内を加入させていた。それを利用して、両親はお互いに1憶の保険金をかけていた。お互いに何があっても困らないようにと言っていたが、喧嘩の度に「早く死ね」と言い合っていて。母親は、父親を殺す為にいつもネットで見つからない殺害方法を検索しているくらいで。そのうち父親は、外に女を作ってあまり家に帰らなくなった…。俺にとって、家族って幸せな存在には思えなくて。大金の手に入れるための道具だと、ずっと思っていたから…」
素直に話す文彦はとても穏やかな表情で、優しさに溢れていた。
この人も寂しかったのかもしれない。
家族と言う幸せを知らなくて、探していたのかもしれない。
優衣里はそう思った。
「俺…どんどん綺麗になって行く伊集院さんを見ていて、羨ましかった。…あの時の和服姿は、息を呑むほど綺麗だったから。…正直、俺なんかには勿体ないって思えたくらいだった。…だから、幸せになって…。そして、これからは沢山人に甘えて護られていいと思う。…伊集院さんが、実はとっても強いのはよく分かったけど…」
ああ…麗人さんが中にいた時の事ね、掴みかかったり鳩尾蹴飛ばしたりしたんだったわ。
まぁ、私もそのくらいはやりかねないけどね。
「そうね、これからは男の人に護ってもらうのもいいと思うわ」
目と目が合うと、文彦と優衣里は笑い合った。
ここで和解が成立したと思えた瞬間だった。