逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
子犬とあの子
それは麗人が大学を卒業する時だった。
優衣里はよく大学の花壇にやって来て、花を見たり迷い込んだ猫や犬をかわいがっていた。
だが、ある日迷い込んだ子犬を介抱していた優衣里に出会った。
愛想がない麗人は何をしているのだろうと、優衣里に近づいた。
優衣里は可愛い子犬を抱っこしていた。
「ごめんね、うちはみんな忙しくて飼ってあげられないの」
よしよしと、子犬の頭を撫でる優衣里を見て麗人は胸がキュンとなった。
麗人に気づかないまま優衣里は子犬を置いて帰ってしまった。
その後に麗人がやって来て、その子犬を連れて帰った。
子犬を連れて帰ると、鷹人も麗香も随分驚いていたが麗人がそんなに大切なら飼ってもいいと言ってくれてその日から沙原家の一員となった。
雌犬の雑種だが、とてもお利口で麗人になついていた。
しかし、それ以来ずっと優衣里を見かけなくなってしまった。
子犬を連れて帰ってしまったからかな? と麗人は思っていた。
結局卒業するまで優衣里には会うことが出来ず、気持ちを伝えることができないまま別々の道へ進んで行った。
麗人は父の会社を継ぐために、他の企業で勤務していた。
きっと優衣里は家業を継ぐのだろうと思っていた。
季節が廻り暖かい春の日差しが心地よい季節になった。
大学を卒業して2年。
麗人は沙原コンサルティングに就職してきた。
だが、父の後を継ぐ為営業部で修行をする為に素性を隠して母の旧姓である九条を名乗り就職した。
麗人の外回りを教えてくれたのは、皮肉にも文彦だった。
2年ほど先輩でいい加減な教え方しかしない人だったが、それなりに学べたような気がしていた。
1年後に麗人は営業部長へ就任した。
その時。
新入社員として入って来たのは。
優衣里だった。
法律事務所で2年就職して、転職してきたようだ。
新入社員の名簿を見て、麗人は真っ先に優衣里を営業部に配属してほしいと頼んだ。
覚えているだろうか? 僕の事。
そうちょっと期待していたが、優衣里は全く麗人を覚えていなかった。
月日が過ぎていているのだから仕方ない。
でも覚えていなくていい、傍で見ているだけでいい。
麗人はそう思っていた。