逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
春の日差しが暖かく包み込むオフィスビル。
今日もいつものように1日にが始まる。
沙原コンサルティング営業部は、今日も忙しそうに朝から外回し社員はバタバタと準備している。
「おはようございます」
しっとりとした優しい声で挨拶が聞こえ、外回りの準備をしていた社員が振り向いた。
「え? 」
「だ、誰? 」
ん? と、外回りの準備をしていた史彦も視線を向けた。
長い髪を綺麗に片側で結って、毛先には可愛くカールを巻いて、シュッと綺麗なフェイスラインに上品なメイクで、春色の明るいブルーのジャケットにお揃いのブルーのスラックスに白いヒール姿で現れたのは優衣里こと麗人だった。
いつもかけている分厚い眼鏡はかけておらず、素顔のままの優衣里は誰もが振り向きたくなるほどの美人になっていた。
驚く社員をよそにそのまま歩いて来て席に座った麗人。
「伊集院さん? 」
「嘘? 昨日とは全く違うじゃないか」
「でも、今の方が伊集院らしい感じがする」
「そうだね、メガネ外したらきっと美人だと思っていたから」
史彦は現実を疑うかのような目を向けて、優衣里を見ていた。
「おはようございます」
相変わらず若作りな格好の彩が出勤してきた。
濃いメイクをしているが、まだ眠そうな顔をしていてだらしがない。
「ん? どうしたの? 朝丘さん」
彩が声をかけると、文彦はハッと我に返った。
「あ…いや…」
驚いている文彦の目の先を見ると、彩は驚いて目を丸くした。
「…優衣里? どうしたの? 一体…」
何が起こったのかと驚く社員達を無視して、麗人はいつもどおり仕事にとりかかった。
「おはようございます」
不愛想な声で入って来た部長の麗人がやって来た。
「部長、おはようございます」
立ち上がって麗人が挨拶をすると、不愛想だった部長の麗人が立ち止まった。
麗人は部長の麗人に向かって、そっと微笑んだ。
ねぇ…素直になりなよ、綺麗だってそう思っただろう? その表現を、素直に出せばいいんだよ。
ずっと想っているのに我慢なんてする事はない。
お前が我慢していると、一番愛している優衣里さんが不幸になるんだよ。
それでもいいのか?
微笑んだ内で麗人はそう思っていた。
だが部長の麗人は、一瞬だけ驚いたような顔を浮かべたが、すぐさまいつもの不愛想になり、軽く頭を下げて自分の席へ行ってしまった。