逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~

「珈琲有難うございます。こんど、お礼をしますね」
「お礼をしてくれるのですか? 」
「はい、もちろんです」
「じゃあ、一緒にご飯行ってもらえませんか? 」
「え? 」

 そう言えば優衣里さんを一度だけ食事に誘ったんだっけ。
 でもその後に、萩野さんが大げさに「婚約者がいるのに」って騒いだんだった。

「勿論喜んで行きますよ」
「本当ですか? 」

 不愛想な顔を真っ赤にして、部長の麗人は真っ直ぐな目をして見つめてきた。

「はい、本当ですよ。夕飯でもいいですか? ランチだと、誰かに見られたらうるさいじゃないですか」
「いいんですか? 」
「ええ、いいですよ」
「分かりました。予定をたてます」
「楽しみにしています。お返事は、携帯電話に電話してもらえますか? 」
「分かりました。なるべく早く連絡しますので、少しだけお待ちください」
「お待ちしていますね」

 そのまま去って行った麗人。


 きっとすげぇ喜んでいる。
 一生懸命美味しいお店を探して、お互いの好き嫌いに触れないお店を厳選してくるんだ。

 あのランチの時だってそうだったから。


 かつて、部長だった麗人が優衣里をランチに誘った事があった。
 文彦と彩が密会している所を聞いてしまい、その事実を伝えたかったのだ。
 だが結局言い出せなかった。
 文彦を信頼している優衣里に、実は親友の萩野さんが裏切って2人で何かを企んでいて、親密な関係であるとはとても言い出せなかったのだ。
 
 すごく後悔していた。
 あの時しっかり伝えていれば、優衣里の人生をあんな悲惨な結婚に向かわせなくて済んだのにと。

 2人でランチに行ったことを、彩が目撃していて写真まで撮られていて優衣里はその後酷く文彦に怒鳴られていた。
 エレベーター前でフロアに響くくらいの声で怒鳴られていた優衣里を見て、麗人は思わず止めに入った。
 気に入らない顔をして黙った史彦だったが、その後はまるで恋敵を見るような目でずっと見られていた。

 そんな目で見るならどうして、もっと優衣里を大切にしてあげないのかと疑問だった。

 

「優衣里、ちょっといいかしら? 」

 戻ってくると彩が待ち構えていた。

「なんですか? 」
 
 ニヤッと笑って彩が歩み寄った来た。

 相変わらず気持ちわるい笑顔だ。
 こうゆう時って、何か企んでいると思うけど。

「実は貴女に話しておきたい事があって」
「なんでしょう? 」
「私ね…部長から言い寄られているの」

 はぁ? んな事してねぇって。
 誰がお前なんかに言い寄るか!
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