逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
ドア越しに聞いていた麗人は、ズキンと胸に痛みを感じた。
(…お父さんは、私がいるから再婚したくてもしないんだ…)
胸の奥から聞こえて来た声に、麗人はハッとなった。
(私がいつまでも結婚しないから、再婚したくてもしないままでいる。…お父さんが再婚すると、私が邪魔をすると思っているから。…だから…早く結婚して家を出ないと…)
これは…もしかして優衣里の本心なのだろうか?
カチャッ。
ドアが開いて喜代が出て来た。
麗人はちょっとバツの悪そうな顔をして、そっと顔を背けた。
「あら、優衣里さん。もしかして、聞いていたの? 」
ちょっと怒り口調で喜代が言った。
「す、すみません。何か、声が聞こえて来たので気になって見に来てしまいました」
「そう。ちょうど良かったわ、この際だからハッキリ言っておきたいの」
え? 何を?
ちょっとだけ視線を喜代に向けた麗人。
喜代は怒りと嫉妬の視線で見ていた。
「先生が再婚しないのは、貴女のせいよ」
「え? 自分がですか? 」
「そうよ。だって、貴女がいつまでも結婚しないで家にいるから。先生は心配で、再婚もできないんじゃない? 忙しくしている人が、奥さんがいなくて平気なわけないでしょう? 先生には支えが必要なの。分かる? 」
「はい…」
「貴女は先生の邪魔をしているのよ! もういい年なんだから、早く結婚したら? 」
それだけ言うと喜代はそのまま去って行った。
麗人は暫くその場に佇んでいた。
今の言葉は優衣里に向けられた言葉だが、ズキンと胸の奥からの痛みを感じた麗人は、このショックはきっと優衣里が受けたものだと痛感した。
(私だって…結婚したいし恋愛だってしたいって思った。…でも…お父さんが、悲しそうな目をしているから心配で。…傍にいてあげたいって思っているのに。どうして、あんなこと言われなくちゃいけないの? )
また聞こえて来た胸の奥からの声…。
麗人はそっと胸に手を当ててみた。
すると、悲しそうな目をして仏壇を見ている優造の顔が見えて来た。
そして、そんな優造を遠目で見ていた優衣理の姿も見えて来た。
優造を見ている優衣里は高校の制服を着ている。
もしかして…お互いが心配するあまり、本当の気持ちを認められなくてすれ違っていたのかもしれない。
今の言葉を優衣里さんが聞いていたらきっと、自分がいなくなればお父さんが幸せになれるって思ったに違いない。
書斎のドアを見つめて、麗人はそっとその場から去って行こうとした。