逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~

「お願いします。…伊集院優衣里さんを、営業部に所属させて下さい。ご本人も、営業関係と希望しているようなので」

 麗人がお願いしに来ると、鷹人は少し固まったような目で見ていたが、小さく笑いを浮かべて。

「心配しなくていい。営業部は、女子社員が1名退職しているから。伊集院さんには、営業部に行ってもらうように強く押しているから安心しなさい」

 社長として言っている部分と、父親として言っている部分が鷹人にはあった。
 なんとなく、麗人を見ていると鷹人は今までとは違う様子を感じ取ったのだろう。


 そんな事で優衣里は営業部に所属が決まった。


「初めまして、伊集院優衣里と申します」

 営業部にやって来た優衣里は、写真で見るより暗い感じで声のトーンも低かった。
 メガネで地味な感じが強調されていて、どこか人を寄せ付けないような雰囲気が強かった。

「初めまして、営業部長の九条麗人です」

 麗人が名乗ると、優衣里は眼鏡の奥でちょっとだけ怪訝そうな目を浮かべていた。
 だが律儀な挨拶を交わして、後は何も喋らないままだった。

 外回りを希望していたが、退職した女子社員が麗人が印鑑を押した書類を社長室へ届ける役割をしていた事から優衣里にも内勤を任せる事にした。

 淡々と仕事をしている優衣里を見ながら、麗人は自分の事なんてすっかり忘れているのだと思い込んでしまったのだ。


 それから間もなくして、文彦と交際するようになった優衣里。
 だが、上辺では笑顔を見せるが眼鏡の奥の目がいつもどこか怒っているような感じに見えていた。


 婚約を発表したときも、心から喜んでいるようには見えなかった。
 自分のエゴなのだろうか? と麗人は思っていたのだが。

< 42 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop