逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
 
 人だかりができる中。
 その人だかりをかき分けてかけて駆けて来た者がいた。

「伊集院さん! 」

 その者は麗人だった。
 
 遠くから救急車のサイレン音が聞こえる中、麗人は人目を顧みることなく血まみれの優衣里を抱きしめた。

「伊集院さん…目を開けて下さい! …僕が助けますから…貴方の人生ごと、僕が助けますから! 」

 日頃の麗人からは全く想像もできないくらい、悲痛な声が響いていた…。



 
 その後。
 救急車が到着して優衣里は病院へ運ばれたが、出血多量で亡くなった。

 警察や目撃者の証言から、文彦が言い争った末、カッとなり優衣里を突き落としたと断定された。

「違う! 俺は何もしていない! ただ話をしていただけだ、優衣里が勝手に自分で落ちただけだ! 」
 そう言いはる文彦だが、目撃者が多く信じてもらうことが出来なかった。
 
 文彦は優衣里殺害の容疑で逮捕された。
 そして、文彦が優衣里に1憶円の保険金をかけていた事が判明し、その保険金を山分けして優雅に暮らす計画を一緒に立てていたとの疑いで彩も逮捕された。

 何も関係ないと言い張る彩だが、防犯カメラなどに2人で密会していた内容が録画されている事から犯行は確実と断定された。



 霊安室で眠る優衣里の傍に、項垂れている麗人がいる。
 普段は眼鏡をかけて不愛想にしている麗人が、メガネを外して悔しそうに拳を握りしめている…。

「…ごめんなさい…。僕がもっと、自分に正直になっていれば…貴方をこんな目にあわせる事はなかった…。許して下さい…」

 そう呟いて、拳を握りしめたまま、麗人は霊安室を出て行った。



 何も考えららないまま麗人は、どこをどう歩いたのか分からないが駅前の歩道橋の上に立っていた。

「優衣里さん。…どんな気持ちで、ここに立っていたのですか? …」

 そう呟いた麗人は、そっと空を見上げた。
「優衣里さん…僕も、貴方の傍に行きます…。ずっと想っていました…高校生の時から。…貴女に再会して、嬉しかった…」

 目を閉じてそのまま身を乗り出した麗人は、真っ逆さまに落ちてゆく感覚を感じていた。
 暗闇の中へどんどん吸い込まれてゆく…。
 何も感じない痛みすら感じない。
 
 暗い闇の中へ吸い込まれてゆくのを感じながら意識が遠くなってゆくのを感じていた麗人。


(こっちに来てはダメ。貴方は、大切な任務がある。…愛する人の人生を変える役目があるの)

 そんな声が聞こえて来た。

 愛する人の人生を変えるって、もう死んだからできないよ。

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