逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
「なんだよそれ。うちわ揉めに、会社が首突っ込んでくるのかよ! アンタがいけないんだろ? 人の婚約者に手を出して、挙句に婚約破棄までさせようとしているじゃねぇか! 」
グイッと、文彦は部長の麗人の襟首をつかんだ。
「あんた俺より後から入社してきたろ? 俺が、あんたに仕事を教えてやったんだぞ! わかってんのか? 」
「その通りですね。しかし、仕事の評価と言うのは入社のタイミングや先輩後輩では決まりません。これは、上層部が決めた事です。自分の一存で決めたことではありません」
「俺の女奪っておきながら、平気な顔してよく言うな! テメー、なめてんのか! 」
拳を握りしめそのまま殴りかかって来た文彦!
だが、部長の麗人はサッとその拳を掌で受け止めた。
見ていた社員達も固唾をのんでいた。
拳を止められた文彦はギロっとした目で部長の麗人を睨みつけた。
「自分は何もしていません。朝丘さんの婚約問題は、個人の問題で仕事には関係ありません」
「何言ってんだ! テメーがあんな動画見せたのが原因だろ! 」
「自分は真実を見せただけです。それを見て、どう判断するかは個人の自由です」
「ああ、そうかい! だったら訴えられてもいいんだな? これは、俺にとっては精神的な屈辱だ! それに、お前は萩野さんにも言い寄っているそうじゃねぇか! 」
「なんともで言って下さい」
バシッと、拳を振り払った部長の麗人。
「何を言われようとも、自分は間違った事はしていません。それから、自分にはちゃんと名前がありますので。お前だのテメーだの、そのような呼び方はやめて下さい。仮にも今は、朝丘さんの上司ですから」
「はいはい、分かりましたよ! 九条部長! そう呼べばいいんですよね? 」
部長の麗人はフッと笑った。
「今まではそうでした。でも、今後は九条ではなく…沙原と呼んで下さい」
「はぁ? 」
「九条とは母の旧姓を借りていただけです。本当の自分の名前は、沙原麗人です」
ばこん! と、頭を強打されたような刺激が走ったのを文彦は感じた。
沙原だと? 社長と同じ苗字?
って事はまさか…。
驚きながら、文彦は部長の麗人をじっと見た。
メガネをかけているときは分からなかったが、素顔になると確かに社長と似ている。
髪の色も同じだし…。
じゃあ、彩と付き合っている沙原麗人は誰なんだ? あいつが偽物なら、彩の計画は全てパーになってしまう!