逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
「あの写真の人は…全くの別人です」
ギロっと豹変したような目つきになった彩は、部長の麗人を睨みつけた。
「じゃあ、私は騙されたって事ですか? 沙原コンサルティングの社長の息子、沙原麗人だと名乗って付き合って欲しいと言って来たのですよ! 」
「その辺りの事は、自分ではわかりかねます」
「冗談じゃないわ! ふざけないでよ! 私…彼の子供を妊娠しているんですよ! 」
はぁ? 妊娠?
仕事をしながら聞いていた麗人も、思わず手を止めた。
他の社員も聞こえた内容に驚き振り向いていた。
部長の麗人は冷静な表情のままじっと彩を見ていた。
「彼が、結婚してくれるって言いました。だから…子供ができても責任取るって言ったから私…」
わざとらしく涙ぐむ彩…。
部長の麗人は内心やれやれと呆れていた。
これがこの人の得意な嘘の演技だ。
仮にそんな関係になったとしても、妊娠はありえない。
そう確信している部長の麗人。
「申し訳ございませんが、萩野さんの個人的な事情に仕事の事は関係ありません。あくまでも、契約を打ち切るのは萩野さんの勤務態度と取引先からのクレームが多発している事が原因です。クレームの中には、萩野さんが差し入れに持って来たお菓子に異物が入っていて大変な事になたと言ってこられた企業もあります」
「そんな事、私のせいじゃないです! 」
「確かに、萩野さんがただお菓子を買って差し入れただけなら責任はないかもしれません。ただ、明らかにお菓子の包み紙の外側から何かを混入した形跡があったと聞いています。それに、ここのところの萩野さんの勤務態度は明らかに怠慢すぎます」
「仕方ないじゃないですか! 妊娠していて、気持ちも不安定な時期なんですから! 」
「それなら仕事を休み、体調管理に徹するのが当然だと思います」
「だって、仕事やすんだらお給料が減っちゃうやないですか! うちには、病気の母親がいるんですよ! 」
病気の母親? 母親はとっくに亡くなっている筈。
それは自分でも話していた事だ。
両親は高校生の時に亡くなったと…。
聞いていた麗人は呆れ果てていた。
「とにかくこれは、社長が決めた辞令です。朝丘さんは、辞令に従えないのでしたら社長に直接抗議をして下さい。萩野さんは、派遣会社と後は話し合って下さい。我が社では契約打ち切りは、変わりませんので」
「そうですか、分かりました。では、こちらも訴えますので。これは、不当な辞令ですから! 」
強気に出た文彦に、部長の麗人は余裕の笑みを浮かべた。