逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
「好きにして下さい。どこに出てもらっても、構いませんので」
悔しそうに部長の麗人を睨みつけ、文彦は返し支度をして出て行った。
彩も文彦に続いて帰り支度をして出て行った。
他の社員達は文彦と彩の異常な態度に、不安を感じていた。
だが、部長の麗人が社長の息子で沙原麗人だと知ってもあまり驚いていないようだ。
「みなさん、お騒がせして申し訳ございませんでした」
部長の麗人が他の社員に向かて謝罪した。
「部長、何も気にしないで下さい」
「私達、気づいていましたから」
「部長が、社長の息子さんじゃないかな? ってずっと思ってました」
え? と、部長の麗人は驚いた目を浮かべた。
「だって部長、社長と似ていますから」
「そうですよ、歩き方もそっくりですし。背格好も似ていますから」
「顔立ちは奥様に似ていらっしゃるようですけどね。綺麗な顔をしているのに、分厚い眼鏡かけて勿体ないって思っていました」
「みんなに気を使わせないように、正体隠しているのかな? って思っていたので、知らないふりをしていたのですよ」
みんな知っていたのか…。
それでも知らないふりをして、見守ていてくれたなんて…。
じわっと胸に混みあ賀うのを感じた、部長の麗人の目が潤んできた。
「やっと本当の事を話してくれたのですね」
「もうこれで、素直になれますよね? 部長」
「不愛想なのは、自分に嘘ついているからなんだって思っていましたから」
恥ずかしそうに視線を落とした部長の麗人。
みんな気づいていたんだ。
じゃあ、もっと早くカミングアウトしても良かったのかな?
いや…きっと、優衣里さんがこの会社に転職して来た時に言うべきだったのかもしれない。
そうしたら優衣里さんが、あんな悲惨な結婚を選ぶことはなっただろう…。
麗人はちょっとだけ自分を責めていた。