逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~

 過去に戻っている。
 これが夢ならどうか醒めないでほしい、この日はあの秘密を知った日。
 だから…優衣里さんを、あの悲惨な結婚から救い出すことが出来るんだ。


 そう思いながら社長室へやって来た麗人。

 同じフロアの一番奥にある、立派な扉で作られた社長室。


 現在沙原コンサルティング社長は、沙原鷹人(さはら・たかと)55歳。
 ちょっと洋風な顔立ちで、目鼻立ちがしっかりしている鷹人は、若い頃からとてもモテていた。
 50代後半になった今でも、若々しく歩くだけでも通り行く女性が振り向いて立ち止まるくらいだ。
 姿勢も良くスラっとした長身で、社長でも気取ることなく気軽に社員と話している。
 父の後を継いで社長になった鷹人だが、妻の麗香とは壮大なラブストーリがあったと語られている。
 妻の麗香は鷹人より5歳年上で元刑事だった。
 結婚してからはずっと専業主婦だったが、現在は鷹人の秘書として働いている。
 いつも鷹人を支えとても仲の良い夫婦である。


 麗人が社長室のドアをノックしようとした時。

「麗人は営業部にも馴染んできたようだね」
「ええ、部長になってから業績もどんどん上がっていて。来年には、副社長に就任してもいいくらいよ」

 中から聞こえて来た鷹人と麗香の話し声に、ノックしようとした手を止めた麗人。

 そうか。
 この時期、そろそろ副社長に就任してもいいんじゃないかと話が出ていたんだっけ。

 でも…。
 優衣里さんの結婚を知って、納得ができなくて優衣里さんが本当に幸せになるのを見届けてから本当の事を話したいと思って先延ばしにしていたんだっけ。

「あら、もう15時過ぎたわね。そろそろ珈琲でもいれるわね」

 麗香の足音が近づいて来た。

 あ…どうしよう…。
 今は優衣里さんの姿だし、気づかれないよね。

 ちょっと固まっていた麗人。

 カチャッとドアが開いて麗香が出て来た。

 綺麗なブラウンの髪は軽やかなショートにして、とても鷹人より年上には見えない若々しい顔のまま、気品あふれる麗香。
 シックなグレーのワンピースに黒いパンプス。
 スタイルも良く、いまだに30代に間違えられるくらいだ。

「あら、貴女は営業部の伊集院さんね? 」
「は、はい…」

 やっぱり気づかない…良かった。
 一先ずホッとした麗人。

「す、すみません。これを社長に持ってきました」
 
 ファイルを差し出した麗人を見て、麗香はクスッと笑った。

「そんなに固くなる事はないじゃない、入って」

 麗人とは全く気付くことなく、麗香は背中をそっと押して社長室に招き入れた。
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