逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~

「ん? あ、営業部の伊集院さん。お疲れ様」
「あ、あの…。これ、部長に頼まれましたのでお届けに…」

 ちょっと緊張した面持でファイルを渡した麗人。
 いやいや、今は優衣里さんなんだからなりきらなくちゃ。
 そう自分に言い聞かせた。

「有難う、わざわざ持って来てくれて。部長は、相変わらず愛想がないだろう? 」
「い、いえ…そうではなく…。その…」

 ダメだ、自分の事を聞かれるとどう答えていいのか分からない…。

「部長は幸せだと思うね。伊集院さんのように、素敵な女性が同じ部署にいてくれるのだから」
「そうなんです! 」

 あ…。
 何を言っているんだ? 今は優衣里さんなんだから。

「すみません…。そんな事は、ありませんので…」
 って答えるのが普通だな。

 鷹人はクスッと小さく笑った。

「伊集院さん。そんなに固くならないで、本当にそう思っているんだ。私には、息子が一人いるんだけどね。是非、今度会ってもらえないかな? 」
「と、とんでもございません! 」

 ってか、もう会っているし…。
 何を言っているんだよ! 

 困っている麗人を見て、麗香はあらあらと笑った。

「社長。あまり個人的な事は、慎まないと」
「ん? だって、伊集院さんは素敵な人だから。ほっとくと、他の人に取られちゃうじゃないか」

 他の人と言われて、麗人はハッと思いついた。

「あの、社長。ちょっと、お願いがあるのですが聞いて頂けますか? 」
「え? 何のお願いだ? 」
「はい。実は…同じ部署の朝丘さんに、ずっと言い寄られていまして。お試しでお付き合いしていたのですが、どうやら朝丘さんは同じ部署の萩野さんと親密な関係のようで。それでも、私に結婚しようとまで言ってくるので…困っています…」

 鷹人は驚いているのか、じっと優衣里を見つめていた…。

 わぁっ、ちょっとやばいかな?
 こんな目をしている時って、相手が嘘をついているのかどか考えている時だよ…。
 って、僕は嘘は言っていないし。

 確かにあの2人は密会していた。
 それも、伊集院さんを早く殺したいとか言っていたから。

「なるほど。あの噂は本当だったんだね」
「え? 」

「同じ部署の他の社員から、朝丘君と萩野さんの事は聞いている。朝丘君は、伊集院さんと付き合っているようだけど。よく萩野さんと密会しているようだってね。一緒に外周りに行って、どこを回っているのか知らないけど。2人して同じような匂いをつけて、帰社する事もあって外回りと言ってどこかで遊んでいるんじゃないかって、報告が数件あったからね」

 そんな事を言っていた社員がいたのか。
 僕は全く知らなかったけど…それだけ、周りを見ていなかったのかな…。
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