逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
私の幸せは
夕刻時。
この時間の駅前は人がごった返している。
帰宅ラッシュもあり、バタバタと通り過ぎる人達が沢山いる。
そんな中。
派手な赤いスリップドレス姿で佇んでいる彩がいた。
駅前の時計台付近まで歩いて来た彩は、まるで獲物を狩る狩人のような目つきで周りを見ている。
「まるで野獣のようだな」
後ろから声がして彩が振り向くと、そこには純也がいた。
今日はかっちりした黒いスーツ姿でネクタイはしていない。
前に見た時よりエリートな雰囲気に見える純也に、彩は怪しく微笑みかけた。
「あんたはラッキーね。ここで、野獣に声をかけたのだから」
言いながら歩み寄って来た彩は、グイッと純也の顎を人差し指で持ち上げた。
「沙原麗人。そう名乗ったわよね? 」
「ああ、そうだが? 」
「沙原麗人で、沙原コンサルティングの社長の息子って言ったわよね? 」
「確かにそう言ったな」
ギュッと親指と人差し指で純也の顎を強く握った彩は、まるで魔女のような怖い目になった。
「…確かに似ているわね、本物の沙原麗人に。声も似ているようだわ」
「へぇー。本物に会ったんだ」
「ええ、残念だけど会ってしまったわ。…ずっと好きだったから、運命の糸で結ばれているって思えるくらいだったわ。でも…彼は私になびかなかった…」
「まぁ、確かに麗人の好みじゃないしアンタ」
はぁ? と目を座らせた彩に、純也はニヤッと笑いを浮かべた。
「俺、実は麗人の双子の弟。名前は九条純也」
「九条? 」
「俺は産まれてすぐに、母親の親族へ養子に行った。だから苗字が違うだけだ」
「ふーん…。双子でも真逆なのね、麗人さんはとても誠実なのにアンタはチャラすぎ! 」
乱暴に純也を着きとばした彩は、またニヤリと笑った。
「チャラいあんたに、責任取ってもらうわ」
「責任? 何の責任だ? 」
「一緒に来て」
顎でついて来いと指して彩は歩き出した。
純也は彩が何を考えているのか察したようだが、そのまま着いて行った。