あるホラーな再恋噺
その2
「中原君…、部屋へ行こう…」
ユキノはその場からノブオに優しくそう声をかけた。
ノブオは黙ってうなずくと、彼女の元へ戻った。
そして、二人はエレベーターで4階に上がり、404号室に入った。
室内は思った以上に広かった。
”手錠にムチに首輪、それに…。ふう‥、まさか、あの水原がこんなとこで、その手の熟練らしき男とSMプレイって…。カンペキ、信じられないわ”
非日常的空間を醸す室内を見回しながら、彼は胸の奥でしみじみとそう呟くのだった。
***
水原ユキノとは中学1年の時にクラスが一緒だった。
いきなり席が隣で、最低限言葉を交わし合ったが、それ以外ほとんど会話らしい会話はした記憶もなかった。
ユキノは文句なく頭が良く、おそらくは体育以外はすべて通信簿5であっただろう。
彼女の場合、がり勉タイプではなく、言わば天性の才が備わっていたと見え、字はえらく達筆で絵画も彫刻もウソだろっうてくらいうまく、よく校内に展示されていた。
その他、楽器、演技…、何かの折に、彼女の底知れぬ才を目の当たりにする度、ノブオは中学生ながらに、”この子、何モンだ…”と感嘆するばかりであった。
そして、何と言っても自然と伝わってくる人格というか、とにかく同級生からして、とても同い年には思えないほどの”大人感”が漂ってくるのだ。
彼女は決して目立つ方ではなかったし、自分から何かをしゃしゃり出ることはなかった。
だが、肝心な時にはなんでもやり遂げてしまう…。
ノブオはそんなユキノを、”こいつ、宇宙人なんじゃないのか?”と本気で思うことがあったくらいだったのだ。
***
その彼女が、中1の三学期、バレンタインデーでノブオにチョコレート渡すらしいという”ウワサ”が、彼自身の耳にも入ってきた。
まだ異性への関心も薄く、彼はとりたてて特段の意識も持たなかったが、ちょうど2月14日を含む前後1週間ほど、風疹にかかって、ノブオは学校を休んでしまう。
従って、結果としてユキノからチョコレートを受け取ることはなく、以降もその”真偽”ははっきりしないまま、今日に至っていた訳だ。
しかし、中学時代は彼女に対して異性としての特別な気持ちなどは持ち得なかった…。
が…、卒業して年月が経つに連れ、ユキノという女性は彼の中で特別な存在に”変容”していったのだ。
まずもって、社会人になってから、どんなに時が過ぎても彼女のような”デキた”女性には決して出会うことなどなかった。
”あんな子、他にはいない”…、結論はそこのところへに行きついてしまうのだ。
その結果、妙な話だが、年齢を重ねるごとに、彼女をどんどん”好き”になっていった。
それは結婚した後も…。
***
そんなユキノには今回の同窓会で再会できたら、ずっとあこがれ、尊敬してきたことを伝えた上で、今のサイテーな自分を告白して、この世を去る前にせめてものケジメをつけようと心に決心したのだ。
だが、確かに彼女は同窓会に出席したが、思わぬ展開となり、なんと今、SMホテルの一室に二人っきりなのだ。
彼のアタマに浮かんであろう❓の数はハンパなかったであろう。
「ここで私…、手錠をかけられて拘束されて、鞭で叩かれたの…」
「あのさ、水原…!オレ、実はさ…」
カレは自己破産した人生の落伍者である自分のような者に、自身のコアな”秘密”など語ってもらうことなど、申し訳なくて耐えられなかったのだ。
”ここで全部ぶちまけなきゃ…。オレの恥部をありのまま‥”
だが、彼女は彼の言葉をさえぎった。
それはとても優しい口調で…。
「中原君…、部屋へ行こう…」
ユキノはその場からノブオに優しくそう声をかけた。
ノブオは黙ってうなずくと、彼女の元へ戻った。
そして、二人はエレベーターで4階に上がり、404号室に入った。
室内は思った以上に広かった。
”手錠にムチに首輪、それに…。ふう‥、まさか、あの水原がこんなとこで、その手の熟練らしき男とSMプレイって…。カンペキ、信じられないわ”
非日常的空間を醸す室内を見回しながら、彼は胸の奥でしみじみとそう呟くのだった。
***
水原ユキノとは中学1年の時にクラスが一緒だった。
いきなり席が隣で、最低限言葉を交わし合ったが、それ以外ほとんど会話らしい会話はした記憶もなかった。
ユキノは文句なく頭が良く、おそらくは体育以外はすべて通信簿5であっただろう。
彼女の場合、がり勉タイプではなく、言わば天性の才が備わっていたと見え、字はえらく達筆で絵画も彫刻もウソだろっうてくらいうまく、よく校内に展示されていた。
その他、楽器、演技…、何かの折に、彼女の底知れぬ才を目の当たりにする度、ノブオは中学生ながらに、”この子、何モンだ…”と感嘆するばかりであった。
そして、何と言っても自然と伝わってくる人格というか、とにかく同級生からして、とても同い年には思えないほどの”大人感”が漂ってくるのだ。
彼女は決して目立つ方ではなかったし、自分から何かをしゃしゃり出ることはなかった。
だが、肝心な時にはなんでもやり遂げてしまう…。
ノブオはそんなユキノを、”こいつ、宇宙人なんじゃないのか?”と本気で思うことがあったくらいだったのだ。
***
その彼女が、中1の三学期、バレンタインデーでノブオにチョコレート渡すらしいという”ウワサ”が、彼自身の耳にも入ってきた。
まだ異性への関心も薄く、彼はとりたてて特段の意識も持たなかったが、ちょうど2月14日を含む前後1週間ほど、風疹にかかって、ノブオは学校を休んでしまう。
従って、結果としてユキノからチョコレートを受け取ることはなく、以降もその”真偽”ははっきりしないまま、今日に至っていた訳だ。
しかし、中学時代は彼女に対して異性としての特別な気持ちなどは持ち得なかった…。
が…、卒業して年月が経つに連れ、ユキノという女性は彼の中で特別な存在に”変容”していったのだ。
まずもって、社会人になってから、どんなに時が過ぎても彼女のような”デキた”女性には決して出会うことなどなかった。
”あんな子、他にはいない”…、結論はそこのところへに行きついてしまうのだ。
その結果、妙な話だが、年齢を重ねるごとに、彼女をどんどん”好き”になっていった。
それは結婚した後も…。
***
そんなユキノには今回の同窓会で再会できたら、ずっとあこがれ、尊敬してきたことを伝えた上で、今のサイテーな自分を告白して、この世を去る前にせめてものケジメをつけようと心に決心したのだ。
だが、確かに彼女は同窓会に出席したが、思わぬ展開となり、なんと今、SMホテルの一室に二人っきりなのだ。
彼のアタマに浮かんであろう❓の数はハンパなかったであろう。
「ここで私…、手錠をかけられて拘束されて、鞭で叩かれたの…」
「あのさ、水原…!オレ、実はさ…」
カレは自己破産した人生の落伍者である自分のような者に、自身のコアな”秘密”など語ってもらうことなど、申し訳なくて耐えられなかったのだ。
”ここで全部ぶちまけなきゃ…。オレの恥部をありのまま‥”
だが、彼女は彼の言葉をさえぎった。
それはとても優しい口調で…。