さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす

 ヴァイオリンの音色に目を覚ます。
 純白のウエディングドレスとタキシードが揃って飾られているのが見えた。そして、律樹が贈ってくれたシンデレラが履くような白い靴。ここに存在する何もかもが愛おしくて、光莉は胸がいっぱいだった。
 結婚式の翌日、宿泊したホテルの部屋。
 広々としたベッドの上で、可愛い我が子はまだ夢の中にいる。ベッドサイドにリングピローが置かれ、愛を誓った結婚指輪は、きちんと左薬指にはめてある。
 金木犀の香りがふんわりと漂う。挙式の際にブーケに使った花の匂いだった。
 そして先ほどから流れてくるこの甘いメロディーは愛しい人が奏でているらしい。
 光莉はしばしその音色に身を委ねたあとベッドからそっと降りて、可愛い我が子……葵生の額にキスをする。それから、愛しい夫……律樹の側へと近づき、背中の方からそっと腕を回して抱きついた。
「起こしてしまったね」
「ううん。いいの。最後まで聴かせて」
 リクエストどおりに律樹は演奏をしてくれた。
 しばらくすると音色が止まって、律樹がヴァイオリンをケースに戻す。それから光莉の手に自分の手を重ね、指先にキスをした。彼の指にもお揃いの結婚指輪が填められている。
 ようやくふたりは本当の夫婦になれたのだ。
 幸せな余韻に浸りながら、ふたりは心地のよい沈黙を味わう。側にこうして一緒にいられることが、どれほど幸せなことかを感じていたかった。
 しばしその心地のよい沈黙に身を委ねたあと、律樹が光莉の手を離し、光莉の正面へと向きを変えた。
 目が合って自然とどちらからともなく唇を重ね合わせた。その瞬間にもう微笑みがこぼれてしまう。
「君のその変わらない笑顔が……とても好きだ」
 律樹が眩しそうに目を細めて囁く。
 夫からの甘い囁きに、光莉はさすがにくすぐったくなってしまい、照れ隠しに上目遣いで牽制する。それを察した律樹がくすりと笑った。
「ずっとその笑顔が見たかったんだ。君を守りたくて、君には笑顔でいてほしくて……それが、ずっと昔から俺の生きる糧だった」
「律樹さん……」
「俺にとって君は、道しるべだったんだよ。君のいる場所はいつも温かく輝いていて、俺 はずっとその眩しい光に憧れていたんだ」
 傘になり、盾になり、陽だまりになろう。
 これからはふたりで、そして三人で――。
「ずっと私を守っていてくれてありがとう」
「これからは、俺たちの幸せの家族の形を作っていこう」
 頷いて、新たな誓いのキスをしようとしたところ、葵生がむくりと起き上がった。
 律樹と光莉は笑ってお互いにキスをしたあと、葵生の元へ行き、一緒に我が子をギュッと抱きしめたのだった。


本編(完)


★書籍の方では、番外編を書きおろしさせていただきました。
よろしければお手にとってみてください!

※ルビについてですが、ワードを活用しているためどうしてもルビ機能によって1文字ごとにルビが振られてしまう部分がございます。ご了承いただけますと幸いです。
< 11 / 132 >

この作品をシェア

pagetop