さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
◇プロローグ 恋しくて ~忘れえぬ想い~

 カーテンの隙間から入り込む陽光を瞼に感じる暇もなく、賑やかな朝がはじまっていく。
 洗濯機を回してすぐ、眠たい瞼をこすりながらのっそりと起きてきた我が子の着替えをし、一緒に顔や手を洗う。
 すっかり眠気から覚めた幼児の動きはさながらモンスターだ。あちこち触りながら飛び跳ねたりごろごろ転がったり。テレビを点けると、教育番組の映像につられダンスをしはじめた。その愛らしい姿を眺めながら、朝食の準備をする。
「ごきげんだね、あーくん」
「きゃあ、あー!」
 我が子の可愛らしい声に微笑み、それから一緒になって鼻うたをうたう。
 適当にカットしたブロッコリーを鍋に入れ、にんじんやじゃがいもを賽の目切りにする。耐熱ボウルに入れたあとは電子レンジにお任せコース。下ごしらえが済んだら、溶いておいた卵を熱くなったフライパンに流し込み、オムレツを作りはじめる。
 そのとき、テーブルに置いてあったスマホが鳴った。仕事の予定変更の連絡メッセージだった。
 文面に気をとられていると、ブロッコリーを茹でていた鍋がぐらぐらしはじめ、フライパンに乗せていたプレーンオムレツが焦げそうになり、慌てて火を消した。
 電子レンジの音が急かすように鳴る。親にとって朝は戦場だと、かつて自分の母親から聞いたことを不意に思い出した。
 ご飯を食べさせるのもひと苦労だ。離乳食を作るのも時間だってかかるし、まず遊びはじめるので、ひと筋縄ではいかない。スタイをつけた我が子の姿は可愛いが、手は汚すしテーブルの上はめちゃくちゃになる。騒げばもっとはしゃぐし、叱れば泣き出してしまう。朝から汗だくだ。
 この大惨事を片付けたあとは、歯磨きをしたり登園のための準備をしたりする。加えて、自分の着替えや出勤の準備をしなくてはいけない。髪を丁寧に整えたり化粧に拘ったりする暇なんてない。時間がいくらあっても足りない。時計は残酷に猶予のない時刻を示していた。
「大変。間に合わない。洗濯を干すのは諦めよう」
 生乾きになるだろうし、放置したら薄手の衣類は皺になってしまうだろう。つまりは洗濯をやり直さないといけないことになる。帰ってきたらコインランドリーに駆け込むことが決まった。
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