秘密恋愛短編集
向かい合って座るとなんだか余計に緊張してくる。


思えば聡とこんな風に向かい合って座ったことは1度もなかった。


聡、理恵と呼び捨てにできるくらい距離を縮められてはいるけれど、それ以上どう近づけばいいのかもわからないままだったのだ。


「これってさ、この公式に当てはめるのかな?」


プリントと教科書を交互に睨みつけてふたりで問題をといていく。


ふたりきりの空間に緊張していた私だけれど、聡が真剣に勉強をすすめるので大分落ち着いてくることができた。


「うんそうだね。それで、この問題の公式は……」


ふたりで頭を突き合わせて数学のプリントをといていく。


とてもロマンチックな気分になることではなかったけれど、それは私にとって十分楽しい時間だった。


「なんだ、理恵のほうが数学は得意なんだな」


聡が少し残念そうにつぶやくので「ごめん」と、なんとなく謝ってしまう。


「いや、ご飯のお礼に勉強を教えようと思ったんだけど、逆に教えられちゃったからさ」


そう言って指先で頬をかく聡。


その何気ない仕草がとても愛おしくて胸が高鳴った。
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