秘密恋愛短編集
それなのに顔は先が細くて美青年と呼ぶのがふさわしい。


「うわ、なにこのダンボール。こんなの女子がひとりで運んでんのかよ」


男子生徒は顔をしかめてつぶやいた。


その声でわれに返り、慌ててダンボールを持とうとする。


「いいって、これは俺が運ぶから。何組?」


「え、い、いいの?」


見知らぬ男子生徒に自分の仕事を押し付けてしまうようで申し訳なかったが、このとき本当は助かったと感じていた。


両腕はすでに限界で、だるさを感じている。


「いいよ」


男子生徒はにっこりと人懐っこい笑みを浮かべて歩き出した。


2階から3階のクラスまでの道のりは短い。


その間に私達はお互いに名乗りあった。


「俺は及川聡」


「私は成瀬理恵」


その何気ない会話は、私にとって永遠に忘れられない宝物になった。


それからというもの私はずっと聡ひとすじだ。


聡は誰からも好かれる明るく前向きな性格をしていて、女子生徒からの人気も高い。
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