秘密恋愛短編集
「またお願いしたいんだけど」


その言葉にピンとくるものがあった。


雅子は学年1のイケメン伊藤悦司のことが大好きだ。


その悦司は偶然にも同じB組に在籍していて、雅子は事あるごとに私に隠し撮りをさせているのだ。


そんなの自分ですればいいのにと思うが、もちろん口に出すことはできない。


おおかた隠し撮りなんてめんどくさいことはできないとか、本人にバレて嫌われるのが怖いとか、そういった理由に違いない。


その点、悦司に興味のない私は嫌われたってどうでもいいだろうと思っているんだろう。


私だって誰かに嫌われるようなことはしたくないけれど、雅子からの命令を拒否することはできない。


なにより、これだけのことで平穏無事な学生生活を約束されるのなら簡単なことだと思ってしまう。


「うん、わかったよ」


快く引き受ける私に友人の貴美子は複雑な表情を浮かべている。


正反対に雅子はごきげんな様子で席へ戻っていったのだった。
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