秘密恋愛短編集
実は雅子に頼まれてやったんです。


その言葉が喉元まで出かったけれど、結局なにも言えずにうつむく。


悦司本人にバラしたなんて知られたら、きっとただじゃ済まされない。


それこそ私の学生人生は終わってしまうだろう。


「別に、事情なんてないから」


そう言って手を振り払おうとするけれど、強い力で掴まれていてビクともしない。


焦りで汗が吹き出してきてメガネが少しズレてしまった。


掴まれていない方の手で一旦メガネを外し、かけ直す。


「お前……」


「え?」


今なにか言われただろうか?


首をかしげて顔をあげると悦司の驚いた表情と視線がぶつかった。


一体なにに驚いたんだろう?


周囲を見回してみても特別かわったことはなさそうだけど。


っていうか、そろそろ手を離してほしい。


こんな場面を雅子たちに見られたらとんでもなく怒られてしまいそうだし。


そう思った時、掴まれていた手が緩んだ。
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