秘密恋愛短編集
☆☆☆

それから放課後まではあっという間だった。


今日はアルバイトがあるという貴美子は先に帰ってしまい、雅子たちもバラバラに部活動へ向かった。


部活もバイトもしていない私はいつも放課後図書館へ向かう。


そして2、3冊の本を吟味して借りて、家に帰ってからゆっくりと読書の時間を楽しむのだ。


だけど今日はそれができなかった。


放課後、教室でひとりになるのを待ってから廊下へ出た。


すでに生徒たちの姿はほとんどなく、周囲の喧騒は聞こえてこない。


代わりにグラウンドや部室棟からはにぎやかな声や音が漏れて聞こえてきている。


まるで音のフィルターにかけられたように遠くに喧騒を聞きながら空き教室へと向かう。


放課後にはどの教室も開け放たれていて誰の姿もないが、一番奥の空き教室のドアだけはしっかりと閉められていた。


私はその前に立ち、ゴクリと唾を飲み込んだ。


悦司はここに来るように言ってきたが、ここでなにをするのかは聞いていない。


もし、このドアを開けて雅子たちがいたらどうしよう?
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