秘密恋愛短編集
そう思って脱衣所から出たとき、ちょうど寝室のドアが開いた。


そこは結婚当初は父母が一緒に寝起きしていた部屋で、今は母親がひとりで使っている。


父親の遺影もその部屋に置かれていた。


「おはよう」


まだ眠そうな顔で母親が声をかけてくる。


目が充血していて、まだまだ寝たりていないのがわかった。


「おはよう。ごめん洗濯機の音で目が覚めた?」


「大丈夫よ。どうせ今日は忙しいんだし」


そう言われて私はまばたきをした。


今日はなにか予定があったんだっけ?


買い物は昨日してきたし、学校も仕事も休みだし。


そう思っていると母親がジッとこちらを見つめていることに気がついて視線を向けた。


「今日の夜、会ってほしい人がいるの」


その言葉に心臓がドクンッとはねた。


母親は独身で、数年前から付き合っている男性がいると話しには聞いていた。


だからいつかこんな日がくるのかなと、漠然と考えてもいた。


だけどいざ面と向かってその言葉を言われると反応に困ってしまった。

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