秘密恋愛短編集
「今回は、ちょっと……」


断ろうとして口の中でモゴモゴと言葉を紡ぐ。


しかしそれは相手に聞こえないほどの小さな声で、雅子が苛ついた表情を見せた。


「なに言ってるかわからないんだけど?」


雅子はそうとう気が短いようで、少し自分の気に入らないことがあったらすぐに声が大きくなる。


耳元で大きな声をあげられて、耳の奥がキーンとする。


「えっと、今回はちょっと、無理かな……」


恐る恐る答えると雅子の表情がみるみるうちに変わってきた。


目が釣り上がり、こちらを睨みつけてくる。


雅子たちと一緒にいる友人らも、信じられないといった様子でこちらを見ている。


まさに蛇に睨まれた蛙状態で身動きひとつ取ることができない。


早くここから逃げ出してしまいたいのに、みんなの視線によって縛り付けられている気分だ。


心臓は早鐘をうち、背中には冷や汗が流れていく。
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