秘密恋愛短編集
少し困ったような静かな時間が流れてそれから「あぁ、好きな子だよ」と、声が聞こえてきた。


悦司の好きな子……!


昨日だってそういう話しになった。


それなのに私はその後の展開のほうが気になってしまって、すっかり忘れてしまったんだ。


悦司には好きな子がいる。


だから私が好きになったってどうしようもないのに!


ギュッと胸の奥を締め付けられて苦しくなった。


呼吸がうまくできなくてあえぐように口を開ける。


どうにか落ち着こうと思ったけれど難しくて、私は廊下を逆方向へと駆け出した。


登校してくる生徒たちと何度もぶつかりそうになりながら、空き教室へと入った。


ここなら誰もこないから思う存分泣くことができる。


けれど空き教室へ入った瞬間、昨日のことを思い出してそのまま床に膝をついていた。


悦司は昨日ここで私の頭をなでてくれた。
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