秘密恋愛短編集
だって悦司には他に好きな人がいる。


それも、とびきり可愛い女の子らしい。


そんなの私が勝てるわけがない。


「なにが遅いって?」


「悦司のことが好きだってこと」


この教室には自分以外に誰も居ない。


だからつい返事をしてしまい、ハッと息を飲んで振り向いた。


にじむ視界の中に悦司が立っている。


「なんでここに……!?」


「誰かが走っていく足音がしたから、気になって追いかけきた」


言葉どおり悦司は少し息を切らしている。


私は慌ててメガネを外して涙をぬぐった。


こんなところ見られたくない。


そのときだった。


涙を拭っていた右手の手首を掴まれて引っ張られていた。
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