秘密恋愛短編集
私の体は悦司の胸の中にすっぽりと収まって、左手に持っていたメガネは床に落ちる。


驚きと困惑で時間が停止してしまう。


私はただ悦司の熱と鼓動を感じていることしかできなかった。


やがて空き教室の入り口付近でバタバタと音がしたかと思うと「あ、昨日の美少女!」という声があがった。


どうやら教室で悦司と一緒にいた男子生徒たちもやってきたらしい。


だけど、昨日の美少女って……?


私がひとりでキョトンとしていると、悦司が軽く肩を震わせた。


「誰だよその子、紹介しろよ!」


しかし、悦司は私の体をきつく抱きしめて離さない。


「絶対にお前には紹介しない。さっさと教室戻れよ!」


男子生徒たちは不満そうな声を上げながらも空き教室から遠ざかっていく。


そうしてようやく悦司は私から身を離した。


「頼むから、メガネを外すのは俺の前だけにしろ」


悦司の困ったような声に私は首をかしげる。


さっきからどういう展開なのか全く頭がついていかない。
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