秘密恋愛短編集
貴美子が突然そんなことを言い出すので、口に含んだお茶を思いっきり吐き出してしまうところだった。


無理やり飲み込んだお茶が気管に入り、軽くむせた。


「桃子大丈夫?」


「だ、大丈夫……。どうして玉垣先生の名前?」


「だってみんな言ってるもん。玉垣先生がかっこよすぎて授業が頭に入って来ないって」


それって恋の病ってやつだろうか。


みんな英祐に本当の恋をしてるんだろうか。


考えるとなんだか胸の奥がモヤモヤとした気分になってきた。


「私はそんなんじゃないよ。ただ、考え事してただけ」


英祐とはずっと一緒にいるから、みんなと違って情けない姿をたくさん見てきた。


子供の頃の英祐は私よりも泣き虫だったし、今だってお弁当を忘れて来てるし。


毎朝登校途中におばちゃんに引き止められてお弁当渡されるのだって、おばちゃんが気をつかってしまって大変なんだから。


「考え事ってなに?」


「それはもちろん英――」
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