【短】みかん
年下の彼
「ぜーったい、みかんだっつーの」
「いーやっ。アイスよ!アイス!」
とあるマンションの一室で、かれこれ10分ほど続いている。
5日前にも、こんな言い争いをしていたっけ。
「この前も言っただろ?昔から、みかんって決まってんの!アイスなんて邪道だ。邪道!」
「……。“邪道”って言葉、知ってたんだ…」
「なっ…」
まん丸にした目でしばらくわたしを見つめていたかと思うと、
「失礼だな。…知ってるよ、それくらい」
黒いパーカーの袖をまくり、拗ねた顔でふたつめのみかんの皮をむきはじめた彼。
窓から射し込んでくる陽の光で、彼の薄茶色の髪がキラキラと輝いていた。