【短】みかん

「同じ物、食べたいじゃん?」

と言ってにっこり笑う彼。

「…え?」

「同じ物食べて、『美味しいね』って言い合いたいんだ。それだったら、おまえには“アイス”になるし、オレには当然“みかん”のまま。…だろっ?」

胸の奥がキュンとするような笑顔をして言うから、わたしは何も言えなくなってしまった。


「一緒に食べない?」

窓から射し込んでくる陽の光を、背中にめいっぱい浴びた彼。

この部屋に春が訪れたような、そんな錯覚をおこした。


「…仕方ないなぁ。あ。あとでちゃんと“本物”食べるからねっ」

唇をとがらせたわたしを見て、彼は、ふにゃっと溶けてしまいそうな笑顔を見せる。

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