【短】みかん
彼は、ムムムっと口を曲げ、
「ぜーったい、みかんだっつーの」
とムキになる。
「いーやっ。アイスよ!アイス!」
「ぜーったい、みかんっ!」
そんな言い争いをしばらく続けたあと、
「……うーっ」
彼は小さく唸って、黙り込んでしまった。
「プッ…」
拗ねながらみかんをほおばっている彼を見ていると、友人宅で飼われている子犬を思い出す。
わたしよりひとつ年下の彼は、幼い顔立ちをしている上に、“学生”という身分も手伝ってか、年齢よりもいくつか若く見えてしまう。
でもそれを、わたしは一度も嫌だと思ったことがない。
むしろ、大好きだ。