「星をきみにあげる」
「星をきみにあげる」
僕たちはあの日、満天の星空を見上げていた。
風はなかったと思う。
雲ひとつない、満月が綺麗な夜。
隣に座るルナの肩が今にも触れそうで、少しだけ緊張した。だけどルナはそんなこと一切気にしていなさそうだ。頭上に広がる宝石の海を眺めながら、嬉しそうに口角をあげていた。
「ねえ知ってる?」
ルナの声は凛と澄んでいて、静謐な夜に耳にするには、あまりにも清らかだった。
彼女は星を観たままだったので、僕も空から視線を逸らさずに返事をする。
「何?」
「今見てる星の光は、何年も、何十年も、いや何億年も前の光を放ってるものもあるんだよ」
「それぐらい知ってるよ」
「どうして」
まるでこの世界に初めて来たみたいな反応をする彼女は、星空から視線を逸らして僕を見た。
「どうしてって……。生きていたらそれぐらい、学校で習うだろ。きみの高校では、教えてくれないの?」
「いや、翔が知っていたことにびっくりして」
「きみって僕のこと舐めてるよね」
「あはは、大正解~」
相変わらずムカつくな~、なんて思いながらも、ルナの無邪気な笑顔を見たらどうでもよくなってしまうのだから、彼女の笑顔には何か不思議な効果でもあるのだろうか。
「ねえ翔。私が絶対にできないことをお願いしてもいい?」
「やだ」
「星をとってほしいな」
< 1 / 7 >