「星をきみにあげる」
カフェでのバイトを終えると、スマホには友人たちからメッセージが届いていた。
『吉田振るとかマジか』
『くそ~羨ましいぞ』
と。
どうして知っているのかと思ったが、友人たちのことだから、俺が呼び出されたのを目撃して勝手についてきていたのかもしれない。大人しい性格の吉田さんが誰かに言うとは思えないし、たとえ彼女の友人たちが知っていたとしても、俺の友人たちの耳にその情報が入るとは思えない。
俺はメッセージに既読だけつけて、自転車に跨る。
バイト先のカフェは、カフェ店員という名目がお洒落だったから選んだ。それに家から自転車で15分の距離なので、わりと近場ということもあり、助かっている。
しかし、今日はなんだかすぐに家に帰りたいと思わず何故か遠回りをすることにした。いつもなら大通りを真っすぐ進み、住宅街に入っていくが、今日は横道に逸れて静かで暗い一本道を進んでいく。
時々通る車に気を付けながら、いつもより少し重たいペダルをゆっくりと回していると、すでに今日の営業時間を終えた本屋の前に差し掛かり、俺は自転車を止めた。
『アルバイト募集中! ※高校生可』
と手書きの紙が入り口に貼ってある。時給がいくらだとか、勤務時間は何時から何時までとか、細かいところまでしっかりと書かれているが、紙を止めているセロハンテープは少し剥がれたり黄ばんでいたりして、長い間募集している事がわかる。
(俺のバイト先の時給よりも安いし、こんな場所じゃ人はこないよな……)
何より、数年前に駅前にできた大きな駅ビルの本屋が出来てしまった事が大きいだろう。漫画や参考書なんかはみんな、駅ビルに買いに行くのが基本だ。
少し遠い地区に住んでいる高校生からしたら、この本屋の存在を知らない人も多いだろう。
(……あの人は、元気かな)
そう思いながら、瞼を閉じる。
そして、自転車のペダルを漕ぎ始めようとした時、視界の片隅でカメラのシャッター音が聞こえてきた。