「星をきみにあげる」
――カシャ。
静かな夜に響いた機械の音。
視線を向けると、本屋の目の前にある小さな公園のジャングルジムの上で、一人の女子高生がスマホを上空に向けていた。
(見た事のない制服だ……。隣町の高校の子かな)
そんなことを思いながら、つられて俺も上を見ると、そこには大きな満月が煌々と輝いていた。雲ひとつない夜空で星たちとともに輝く満月はとても綺麗で、思わずずっと見てしまう。
「ねえ、きみ」
「……」
「きみってば!」
大きな声にハッと我に返る。
ジャングルジムの上に座っていた女の子が、俺の方を向いているのが分かった。
「……俺のこと?」
「そう。きみしかいないでしょ」
どんな表情をしているのか、暗くてよくわからなかったけど明朗快活な声は、この静かな夜には似合わないなと思った。
「こっちにおいでよ。ここからのほうが、そこから見るよりもきっと、綺麗に見えるよ」
夜に見知らぬ男子高生に声をかけるなんて、あまりに不用心すぎると思った。
それに俺としても見知らぬ女子高生に声をかけられるのは、少し怖い。
「遠慮しとく。きみも早く家に帰りなよ」
そう言って俺は自転車のペダルを漕ぎ始めた。
「あ、ちょっと!」
という女子高生の声を無視して、そのまま家路を進んでいった。