Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜

「避けないと怪我するからに決まってんだろうが！！」

ヨハンがそう大声で言うと、男性はさらに顔を赤くする。そして今度は湯のみではなく、急須に手をかけた。また投げるつもりなのか、と呆れながら桜士は素早く男性に近付き、その手を掴む。

「こんなものを投げたら危ないので、やめてください」

淡々と桜士は言う。男性は「手を離せ！無礼者！」と喚いているが、現役の警察官である彼に勝てるわけがない。

桜士は一花たちの方を見る。未だに慎之助と鈴芽は怯えており、体を震わせていた。だが、戦場を駆け抜けてきた一花たちは動じることなく桜士を見ている。

「この村の人たちの健康診断を、今からさせてください」

桜士はそう言い、未だに急須を投げ付けようと暴れる男性の手を軽く捻った。



健康診断の開始時間になると、屋敷の座敷に子どもから大人まで大勢の人が集まってくる。座敷には身長計や体重計、視力検査をするための検査表が置かれている。