Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜
武夫は、真っ赤な顔をしながら桜士と一花を睨み付ける。そして未だに無表情な静江に対し、「行くぞ」と声をかけると検尿用の紙コップを手に大きな足音を立てながら部屋を出て行った。

怒っています、というのが嫌でもわかる武夫の後ろ姿を見ていた桜士だったが、「本田先生」と一花に声をかけられて横に目を向ける。一花は軽く頭を下げ、「ありがとうございました」と言った。

「言いたいこと、全部本田先生が言ってくれてスカッとしました。本当に、ありがとうございます」

「いえ、僕はそんな……。ただムカついただけです」

熱くなっていく頰に桜士はそっと触れる。あんなにも心に渦巻いていた怒りは一花の顔を見ると一瞬で消え、春風のような温かい気持ちになっていた。

「あの!四月一日先生、本田先生、先ほどはありがとうございました」

俯いた鈴芽が大きな声で言う。その手は未だに震えていた。だが、それは仕方のないことだ。

「いつも、あんなことをされてるんですか?」
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