Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜
ヨハンが腕を組みながら怒る。桜士の心にも再び怒りが渦巻いていく。これは立派な傷害事件だ。

「このことを警察には通報しなかったんですか?」

桜士が訊ねると、慎之助と鈴芽は首を横に振る。そこにあったのは、完全に諦め切った顔だった。

「無理ですよ、あの人たちは警察に知り合いがいるみたいで、揉み消されてしまいました」

「私たちはただ、黙って耐えるしかないんです」

腐り切ったその繋がりに、桜士は思わず舌打ちをしそうになった。



お昼頃には全員の健康診断は終了し、屋敷に集まっていた村人たちは一人、また一人と帰って行く。採血や検尿で取った検体は浅間総合病院に送られ、診断結果を各家庭に郵送することになっている。

「健康診断も終わったし、もうあとは帰るだけね!」

「こんなところさっさとオサラバして、何か食べ行こうぜ〜」

アルオチとヨハンはそう言い、素早く帰り支度を済ませてしまう。ようやく地獄のような健康診断が終わった。だが、慎之助と鈴芽の顔はまだ暗い。
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