Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜

一花を男性たちが連れ去ろうにも、桜士がすでに前に立っているため不可能だ。もし仮に近付いたとしても、桜士は今なら迷うことなく男性の腕の骨を折るだろう。

（絶対に四月一日先生に酌なんてさせるか！）

鈴芽を回収し、今すぐここから立ち去りたい。だが桜士たちがいる距離と、武夫と鈴芽がいる距離は離れている。もしも桜士が鈴芽を連れ出そうと走り出した際に、誰かが捕まってしまったら動いた意味がなくなってしまう。

（今は四月一日先生から離れるのは危険だな。奥田慎之助は怯えるだけで何の役にも立たないし……）

さて、どうしようか。桜士がチラリと周りを見回しながらそう考えていると、「お母さん！！」と泣きながらパタパタと走って来る足音が聞こえてくる。

「湊？」

暗い顔をしていた薫子が、泣きじゃくりながら部屋に入って来た湊に駆け寄る。先ほどから姿が見えなかった湊は、どうやら健康診断が終わった後、家の外は行っていたようだ。