Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜
最後に見た慎之助と鈴芽は、何かに気付いたような顔を見せていた。



湊に案内された池に桜士たちは走る。池は屋敷から徒歩五分ほどだった。積もった雪のせいで動きづらい。だが、どんな状況でも駆け付けるのが医者や看護師の使命だ。

「あった!」

先頭を走っていたオリバーが叫ぶ。氷の張った大きめの池には、プカリと男の子がまだうつ伏せの状態で浮かんでいる。全員の顔色が変わった。

「ッ!」

桜士は池に飛び込む。刹那、体の芯から凍り付いてしまいそうな冷たさに驚いてしまう。だが、早く助け出さなくてはならない。

「本田先生!!大丈夫ですか!?」

心配そうに声を上げる一花に、桜士は「大丈夫です!」と言いながら手を上げ、男の子の元へと泳ぐ。少し動くたびに手足が悴んで痛くなる。しかし、今はそんなことを気にしていられない。

(一体、この子は何分この池に浮かんでいたんだ?)

人間は心臓が停止すると、身体中に酸素が運ばれなくなる。心臓は身体中に新鮮な酸素を届けるポンプの役割をしているからだ。
< 38 / 57 >

この作品をシェア

pagetop