Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜
心臓が止まり、血液と酸素が供給されなくなった体は一分が経過するごとに脳へのダメージが進んでいく。脳は機能を一度失うと、再生はしづらい。仮に他の臓器が生きていたとしても、脳に大きな後遺症が残ったり、最悪の場合は命を落としてしまうこともある。

(特に、体力も少なくまだまだ未発達な子どもの場合は……)

最悪の事態が桜士の頭をよぎる中、桜士の手が男の子を掴む。まるで氷のように冷たい体だ。急いで桜士は男の子を連れて岸へと向かう。こうしている間にも、男の子の命のタイムミリットは近付いていく。

「大丈夫!?」

「もう大丈夫だからな!!」

アルオチとオリバーが声をかける。だが男の子の体は変色し、硬直もしていた。間に合わなかったのか、と桜士と一花は顔を見合わせる。だがーーー。

「諦めるな!まずは気道の確保。そして、濡れたこの服を脱がして温める。そこから胸骨圧迫をするぞ」

ヨハンがそう言い、気道の確保を始める。彼の中に「諦める」「絶望」という言葉はないのだろう。だが、その言葉と行動が桜士たちの体を動かす力となる。
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