Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜
「ゲホッ!」

男の子が口から水を吐き出す。桜士は胸骨圧迫の手を止め、ヨハンが脈を測るために男の子の手に指を当てた。

「……弱いけど、脈が戻ってる」

ヨハンのその言葉に、少しだけこの場にホッとした空気が流れる。変色していた肌も色が一気に戻っていた。

「あとは治療がうまくいけばいいんだけど……」

一花の言葉にヨハンは暗い顔になり、桜士は拳を握り締めた。

脳細胞の死滅を遅らせるための治療は、他の内臓へのダメージを考えて三日が限度である。つまり、四日目以降に意識が戻るかどうかが勝負である。

もしも意識が戻ったとしても、長い間心臓が止まっていたのであれば、脳の障害は避けられない。これは医療従事者である桜士たちなら嫌でもわかる。

「男の子のことは僕らに任せてくれませんか?」

救急車が到着した際、慎之助は鈴芽の手を引き、桜士たちに言った。オリバーがヨハンの肩を叩く。

「子どものことはお前の担当だろ?どうする?」

「……医療従事者として、ここに来てくれたことに感謝する。だから二人を信用するよ」
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