Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜



黒羽村から戻って一週間後、病院の勤務が終わった桜士は、公安の後輩である灰原十(はいばらみつる)からの捜査状況報告を聞くため、待ち合わせをしているバーへと向かっていた。

葉が枯れ落ちて、どこか寂しい見た目になった街路樹が、風が吹くたびにガサリと細い枝が揺れる。桜士が吐き出した息は白く染まり、ブルリと体が震える。だが、あの時男の子を助けるために池に飛び込んだ時に比べればマシだ。

男の子が搬送されてから四日後、慎之助から連絡があり、投薬を終えた男の子が目を覚まし、後遺症もなく退院することができそうだと言われた。この連絡には、桜士はもちろん、あの場にいた一花やヨハンたちも驚いていた。助かる確率はゼロに近い状態だったのだが、とんでもない奇跡が起きていたのだ。

「まさか、心臓が止まったことで助かったとはな……」

男の子は冷水が気管や咽頭に直接触れることによって迷走神経反射を起こし、心臓が止まってしまった。水の中に落ちた瞬間に心肺停止状態となったため、肺に水が入らなかった。さらに体が小さかったため急速に体が冷蔵され、体温がたまたま脳の保存に適した温度になったため、脳細胞の破壊を遅らせることができたのだ。
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