Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜
「奇跡はあるものなんだな」

湊が池に落ちたことを教えてくれたから、ヨハンが諦めなかったから、慎之助が搬送先を教えてくれたから、男の子のたった一つしかない命は助かったのだ。

だが、今は優しい医師の本田凌ではない。もう公安警察・九条桜士だ。奇跡の出来事は胸の奥深くにしまい込み、とあるバーのドアを開ける。公安の息のかかったバーだ。

カウンター席に向かうと、十はすでに座っており、ウィスキーの入ったロックグラスを傾けている。その隣に桜士は座った。

「お疲れ、灰原」

「お疲れ様です、九条さん」

十はカウンターにロックグラスを置くと、かばんから一枚の紙を取り出した。そこには、公安警察が追っている犯罪組織であるCerberusのことが書かれている。

「潜入捜査によってわかった情報なんですが、三年前に新しい幹部が組織のメンバーとなり、その幹部が爆弾やら化学兵器を作っているみたいです」

「そいつのコードネームは?」

「フランケンシュタインと呼ばれているようです。残念ながら、その姿を知っているのは限られた人間だけのようですが……」

「そうか」
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