Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜
番外編一 優しい夜
これは、折原藍が退職したばかりの頃の話である。

「おはようございます!」

いつものスクラブに白衣姿で救急科に一花が入ってくる。その顔は笑顔だ。だが、桜士はあることに気付く。

(目が赤く腫れているな)

赤く腫れた目をメイクで誤魔化していた。出勤前に泣いたのだろうか。だが、それに誰も気付いていない。

(気付かれたくないんだな、落ち込んでいることを)

藍は、この病院で一花と最も親しかったと言っても過言ではない。そんな存在がもういないのだ。落ち込むのも無理はない。特に庄司のように大げさなほど落ち込まないのであれば、桜士の中で心配な気持ちは大きくなる。

「四月一日先生」

桜士は、自然と彼女に声をかけていた。



仕事が終わった後、桜士は酷く緊張していた。何故ならば自分の車の助手席に一花が座っているからである。

『今日、仕事が終わった後、ドライブに付き合ってくれませんか?』

そう自分から誘っておいて、こんなにも緊張してしまっている。隣からふわりと漂う花の香りに、桜士の胸は本日何度目かわからない高鳴りを覚えていた。
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