Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜
「先生、どこが具合が悪いんですか?」

「よかったら、一花に診てもらったらどうすか?」

桜士とヨハンも声をかけるが、藍の表情は暗いままだ。そして、カサカサに荒れた唇が言葉を紡ぐ。

「……私、病院を辞めることになりました。今までお世話になりました。お菓子、救急科に置いたからみんなで食べてください」

それだけ言い、藍はフラフラとした足取りで歩いて行く。一花とヨハンは突然の藍の退職に混乱しているようで、その場から動かず、藍の背中を見ている。

「二人とも、先に行っていてください!」

桜士はそう言い、藍の後を追っていた。いくら桜士が演じている本田凌が優しいとはいえ、ここまで行動をする必要があるのか、正直わからない。

(クソッ、面倒だな。少し知り合っただけの産婦人科医なんだぞ?)

心のどこかではそう思い、苛ついている自分がいる。だが、先ほどチラリと見た一花のショックを受けた顔が、桜士の足を動かせる力となっていた。
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