最高のパートナー
目の前の青年の行動は、過去の映像に残る人物の面影がありました。

いや、むしろ、同一人物といってもいいでしょう。いや、きっとそうにちがいありません。

その理由として、禁忌ながら少し過去を振り返らさせてもらいます。

あれは、今日と同じ日曜日の事。季節は冬で、私は手に色気の無い手袋をしながら、ジャンバーをはおり、おまけにフードなんかを被りながら自転車でショッピングに出かけました。

風はその存在自体が、氷の矢のよう、触れるだけで体が痛くなります。まぁ、霜焼けというやつです。とにかく顔なんてフルフェイスで隠したくなるぐらいに寒いので、私はフルフェ……ではなく、マフラーを買いに行ったのです。

「ふぅーふぅー……寒い」

すー、と我慢する時によくしませんか? なんか寒いと反射的にやりたくなる、すーと唇を少し開け空気を取り込むあれです。あれを何度も私は繰り返します。

寒くなると目が痛くなるので、私は基本冬はダテ眼鏡をかけて外に出ています。今だって黒ぶちの眼鏡をかけています。これは豆知識なんですが、今の世の中普通の眼鏡――銀縁眼鏡が店に置いている事はあんまりないみたいですよ。こんな、私が今しているようなおしゃれ眼鏡みたいなのが最近の主流らしく、銀縁は衰退していっているようです。

話は戻り、そうしてアスファルトの地面を走っている時、ふと、何かを通り過ぎました。

「え…………?」

声に出たのはこれだけで、頭の中ではまさか? と何度も何度も思いました。

自転車を止めます。そんなはず絶対にない――そう思い、振り返るとそこには

「おじいさん!」

まさかの、現実化。虚像が実像に入れ替わり思考による認識が、私の心を鋭く貫きます。

おじいさんは、なんと寝るようにアスファルトの上に横たわっており、私はそれを一度見過ごしたから、罪悪感が私を責めているのです。

「大丈夫ですか……!」

駆け寄ると、おじいさんの額から少々の出血が見え、お酒の匂いが鼻を刺激します。そうとう飲んでいるようでした。

とりあえず私は自分の防寒具を全ておじいさんに譲ります。素の手でアスファルトの地面に触れると少し痛かったですが今はそれどころじゃありません。





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