月と桜とハイヒール
「最近の芽依、服装もメイクも肌もイマイチだよ? とにかく、私は心配なの!」
「ありがとう。気持ちだけもらっとく」

 暖色系の照明や、歌声が入っていない洋楽やジャズのBGMが流れるカジュアルイタリアン。
 金曜日の夜ということもあり、周囲のテーブルはカップルも多い。
しかし、カジュアルと言っても、大人向けの落ち着いた店のため、あからさまにイチャついているカップルは見当たらない。それでも、楽しそうに週末の夜を過ごしているカップルを見ると、少し心がざわつく。

 ぼんやりしていると車のヘッドライトなのか、視界の端に何かの光が見えた。それを目で追うように視線を外に向けると、この店の売りの一つである、四季折々の花が咲く庭がライトアップされていることに改めて気付いた。

 麗香が事前に予約してくれていたため、眺めの良い席に案内されたのだろう。

 綺麗だな、と思いつつも窓ガラスに映った自分の姿を見て愕然とする。
暖色系の照明は、料理を美味しそうに見せる。また、女性の肌を美しく見せる効果もあるそうだ。
しかし、芽依の顔は疲れて、肌がくすんでいるようにも見える。麗香に指摘されるのも当然だ。

(最近、あまり鏡を見てなかったな……)

 
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