月と桜とハイヒール
 食事の手が止まっていた芽依に、麗香がスマホの画面を見せながら明るい声を出した。

「ほら、これ見てよ」
「なに?」
「雑誌の公式オンラインページで更新される占い。結構当たるんだよねー。ほら、あんたの牡牛座。運命の出会いの予感、だって」

 キャー、と自分のことのようにはしゃぐ麗香の様子を見て、さらに冷静になってしまった。
 
 しかし、実は社交ダンスには昔から興味がある。初心者の芸能人が、どこまで昇れるのか試合に挑戦する番組が好きだった。
子どもの頃からの猫背も、いつかは直したいと思っている。

「習い事として……なら、始めてみようかな」
「お? いつも決断まで時間がかかるのに珍しい。やっぱり誕生日は彼氏に祝ってもらいたいよねー」
「あくまで、習い事だから! 新年度だし、新しいこと始めてみようと思っただけ!」
「ふーん?」

 にやにやと嬉しそうに笑う麗香の視線から逃げるように、グラスに残っていた赤ワインを一気に飲み干した。
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